2017年10月、有田の窯元集団ARITA PLUSのメンバーと共に、スペインのサン・セバスチャンを訪問した。サン・セバスチャンは、バスク料理と美食(ガストロノミー)の文化で知られ、国際的な映画祭や食の祭典が開催されることでも有名な街である。今回、ARITA PLUSは、この世界料理学会で新たなテーブルウェア作品の発表を予定しており、アジア関係の問い合わせをサポートするため、同行することとなった。
サン・セバスチャンに到着すると、歴史的な街並みと共に、ラ・コンチャ湾の美しい景色に一瞬で目を奪われた。旧市街には、至るところにピンチョスと呼ばれるタパスを提供するバルがあり、食のある暮らしが、日常に根付いている。水辺が近く、食材が豊かな点は、日本の暮らしとも似ているような気がした。
サン・セバスチャンでは、毎年、「サン・セバスティアン・ガストロノミカ」が行われる。スペイン中の有名シェフが集まることで知られ、シェフのプレゼンテーションとともに、テーブルウェアや調理器具などの展示が行われており、ARITA PLUSとしては、新作の手応えを知るには、最適な場所だった。デザイン性が高く、高品質な有田の器は、多くのシェフからの質問を受け、今後の海外展開に高い期待を感じさせるものであった。
サン・セバスチャンの街並みを見ながら思うのは、世界には様々な美しい暮らしがあるのだということ。ここで暮らす人々は、きっと多くを求めることはなく、美味しい食事を味わいながら、愛する家族や友人と会話を楽しむことが大きな喜びなのであろう。ここで暮らせば、きっと自分もそのような人生の楽しみ方を選ぶような気がする。
日本の工芸品を通じて、世界の暮らしを豊かにしたいという想いがある一方で、こうして世界の暮らしからも多くを学ぶことがある。一方通行にならず、そうした異文化からの気づきを忘れないことが、こうした事業にとっては何よりも大切なことかもしれない。そんなことを思うスペインへの旅だった。
文、写真:Yusuke Shibata