HULS Gallery Tokyoオープン

2019年7月4日、東京の赤坂に工芸ギャラリー「HULS Gallery Tokyo」を開設した。赤坂といえば魯山人による伝説の料亭「星岡茶寮」が存在した地でもあり、今でも数多くの料亭がある「食の街」である。また、多数の欧米諸国の大使館が存在し、国際的な印象があることから、この地を直感的に選んだ。

この東京ギャラリーの内装は、空間デザイナーの松村さんと二人三脚で作り上げたものだ。松村さんとは、KORAIのインスタレーションを通じて、様々な対話を重ねてきたことから、互いの美意識を隅々まで擦り合わせることができる。今回のギャラリーでは、格子や畳など日本建築の様式を取り入れ、キーカラーはグレーとした。江戸時代、質素倹約が必然であり、その中で庶民は鼠色を粋な色として発展させたという歴史がある。ギャラリーは、作品が展示されて初めて完成するものであるが、適度な配色を施し、空間に余白を設けることで、その調和をうまく実現することができたのではないかと思う。

HULS Gallery Tokyoでは、シンガポールのギャラリー経験を踏まえて、展示品が丁寧に選定されている。よく選定の基準を聞かれることが多いが、HULS Galleryの場合は、「海外にまで届く工芸の美を備えるものであること」が大切な決まりごとであり、メーカー品であれ、作家品であれ、対等に扱うようにしている。厳密な基準があるわけではなく、色や天然素材のものであれば、自然と互いが馴染む色になるし、形についても「用の美」を思えば、過度なデザインのものは扱うことはない。それぞれの作品は派手さはないかもしれないが、長くじっくりと暮らしに溶け込んでいくものを選んでいる。

ギャラリーを開設して一ヶ月半ほどが経つが、様々な方にギャラリーにお越しいただくと、空間の風通しが良くなってくる。こうしたギャラリーは、空間作りから商品選定まで、こだわって行われるものだが、オープン時はその緊張感が漂っていて、少しだけ居心地が良くない。一人ずつお客が扉をあけるたび、新鮮な空気が入ってきて、そこから本当のギャラリーとしての姿になっていく。

工芸は人々のためであるが、大衆のためであるかといえば、今の時代そうではないだろう。時代は変わり、今では大量生産品の器や衣服を備えることのほうが一般的になっている。思うに、時代が求めるものが必ずしも良いものとは限らないのではないだろうか。薄っすらと見える希望に光を当てるのも、現代の工芸に必要な役割であり、このギャラリーは、その一つのきっかけになってもらえたらという願いがある。

訪れてきた人々が一人ずつ、この場所を特別な場所と感じてくれるように、丁寧にこのギャラリーを育てていきたい。