工芸品の海外展開 – 流通の仕組み

HULSは工芸品の海外展開を専門とする企業なので、常に海外展開のためのポイントを考え続けている。最近では、デザインや価格をローカライズすることの重要性が叫ばれているが、その手法が伝統的なものづくりを継承している工芸メーカーにとって理想的なものなのかは、答えが難しいところだ。

HULSが工芸の海外展開をする上で何よりも重要に考えているのは、「一度売れることではなく、売れ続けることをイメージすること」。工芸メーカーに、海外展開の際、どういった売り上げが理想的かという質問をすれば、ほとんどの会社からは「スポットで大きな注文をいただくよりも、安定した注文が欲しい」という答えが返ってくる。一年に、スポットで200万円の受注があるよりも、コンスタントに毎月20万円の売り上げがあったほうが良いということだ。では、継続的な売り上げを作るには、何が必要なのだろうか。

多くの工芸メーカーは、海外の展示会に出展し、引き合いをもらい、受注することを大きな目標とするが、継続した取引とするには、最初の段階での取引の条件設定(Terms & Condition)が重要となる。取引通貨はもちろんのこと、為替対策や送金のための費用をどこでカバーするかの問題もある。もちろん、実際の輸出手続きに予想もしえない負荷がかかることもあり、そうしたことを事前に予測して条件設定をすることがまずは大切になる。

インターネットの発達により、地方のメーカーと海外の小売店とが直接やりとりができるようになり、商社が仲介する必要性が少なくなってきたように言われることも多いが、はたしてそうだろうか。まず第一に、MOQの問題がある。海外の小売店が、直接メーカーからの仕入れを希望したとして、上記のような為替対策や送金費用をきちんとカバーするには、ある程度の数量を購入してもらわなくてはならない。その数量が仮に商品数100個だとして、そうした数量を一度にすぐに出荷できる工芸メーカーは多くないし、買い手側も販売見込みが定まらないうちに、その数量を購入する小売店は多くない。ここに現実的なギャップがあるわけなのだが、なかなかその問題を直視する人々が少ないのが実情だ。

商社の存在理由の二つ目として、工芸メーカーの所在地の問題がある。工芸産地の多くは、地方に散らばっており、買い手側からすると、それぞれのメーカーをこまめに回ることはまず難しい。その点では、東京もしくは地方都市に拠点のあることの多い商社は、コンタクトの取りやすい存在となる。上記にあげた「継続的な取引」を考えた場合には、こうしたコンタクトの取りやすさは重要だ。

また、コスト面では、継続取引のためには、工芸への興味はもちろんのこと、英語が堪能で、貿易知識があるスタッフを長期的に雇用し続けなくてはならない。また、受注後のフォローには、海外出張は定期的に必要であるし、そうした費用を考えれば、商社との連携というのは、現実的な選択肢として入ってくるように思う。

HULSはこのような点に業界の課題があると考え、語学と貿易の知識に優れるスタッフがおり、東京で複数の工芸のメーカーの品を仕入れ、まとめてシンガポールや香港に輸出するという手法をとっている。昔からある商社の仕組みの一つであるが、良質な工芸品に特化をすることで、専門企業としての差別化を続けている。

この仕組みに何よりも重要なのは、HULSが複数の工芸メーカーの品を客先に提案することを許容していただけるかどうかだ。どうしても、一般的には、自分たちの商品を少しでも多く取り扱ってほしいと競争心が芽生えてしまうものだが、工芸全体の底上げには、一社の未来だけでなく、産地全体、業界全体の未来を考えていくことがとても大切であり、そうした考え方をできるだけ多くのメーカーと共有できたらと思っている。

まだまだこうした仕組みも道半ばではあるが、こうした取り組みが、工芸品の海外展開において、大きなボトムアップの一つになるであろうと信じ、一歩ずつ取り組みを続けている。